目次
新国立競技場建設作業の若者を過労自殺に追い込んだ
オリンピックになると様々なインフラが整備されて都市の街並みが近代化して華やかに映る一方、その裏では様々な悲惨な状況が起きている、というのはどこの世界でも同じかも知れません。
しかし、2017年の春におきた事件は建設業界関連のみならず多くの日本人国民にショッキングな印象を与えました。
新国立競技場のデザインを巡りザハ案が撤回されて予定よりも1年以上遅れて着工される中、誰が見ても突貫工事やむなしの状況で悲劇は起きました。
工事開始から3か月後の2017年3月、「身も心も限界な私はこのような結果しか思い浮かびませんでした」と当時23歳の男性が小さなメモにこう書き残して姿を消しました。
過労自殺。
後に長時間労働で精神障害を発症していたとして労災認定され、競技場建設工事の過酷な労働状況が明らかになりました。
劣悪な労働環境だった
事件後、取材に応じた現場監督の証言からは、「新人なのに通常の2倍以上の業務を任されていた」と当時の状況が明らかになりました。
亡くなった男性は建設工事を受注した大手建設会社などの共同企業体(JV)の1次下請けの建設会社に入社、工事が始まった1年目の12月頃に工事の現場監督に配属されていました。
建設工事の着工が予定よりも1年2か月遅れたこと、他の五輪関連工事も重なり慢性的な人手不足であったこと、職人の高齢化、同僚の担当者が別の現場に異動したこと、等々の要因が重なり2月の残業時間は193時間にもなるほどの劣悪な労働環境であったことが明らかになりました。
元請け建設会社の対応
2017年11月、元請けの大手建設会社、大成建設はようやく下請けを含む現場従事者の健康管理体制を強化すると発表しました。
現場内に看護師や医師を配置するほか、電話による現場専用の健康相談窓口を開設するなどの過労死対策を実施する、というもの。
更に、原則午後8時の現場閉所も徹底、現場従事者の時間外労働を短縮する取り組みを始めました。
この事件はショッキングな事件として報道はされたものの、元請けの建設会社が大きく取り上げられることはなく少しずつ忘れられてきているような気がします。
世間が感じる印象として残ったのは「建設業界はブラック」という『今までの印象を更に強くするもの』だったのではないでしょうか?
ちなみに、大成建設といえば『地図に残る仕事』のキャッチフレーズで有名ですね。
このCMを見て建設業界で働くことを決意した人も多いはず。
スーパーゼネコンの責務として業界のイメージダウンはなんとしても避けて欲しいですね。
形だけの過労死対策ではダメ
そもそも建設会社がとった過労死対策は今後に活かされるのか?個人的には下記の点で大きな疑問を感じます。
現場内の相談窓口で解決するほどの小さな問題なのか?
そもそも残業時間が多く、話しかけても視点が定まらなかったりしている若い職員に対して、何もしてあげられなかった組織としての倫理が欠如していると感じます。
前例のない相談窓口を作りました、なんて外部に向けた単なるアピール以外の何ものでもないと正直感じてしまいました。
この相談窓口に1次下請け、2次下請け、3次下請けの職員が駆け込むことはできたのでしょうか?
現場では「バカか、てめぇ」と言われ長時間労働を強いられ、精神的に参っていた若者を救うための対策が相談窓口なんでしょうか?
そんな外面のいいものじゃなくて、対策はもっと泥臭くて人間臭いあるところにあるハズです。
見て見ぬふりをしていなかったか?
組織的な形だけの対応だけじゃなく、同じようなことが起きないような組織にしていって欲しいと切に願います。
午後8時閉所が改善策という時代錯誤
極度の長時間労働が原因であるとして、現場内の事務所で原則午後8時までの閉所を徹底したそうです。
ハッキリ言って『バカにしてる!』というのが率直な感想でした。なんで『原則?』、『午後8時って普通に遅くない?!』って思いません? 感覚が完全にズレちゃってます。
「原則」なんて言ったら例外も出てくるし、それを盾に残業を認めることになる。
確かに大きなコンクリートなどは時間通りに計画できないのはわかるけれども出来ないと判っていることを対策として挙げる神経が理解できませんでした。
また午後8時の閉所に関しても理解できませんね。建設現場は朝が早いです。
午後8時でも普通の会社にとってみたら働きすぎと言われる世の中。
結局、建設業界にとってみたら「午後8時閉所」というのは今までの労働時間と比較したら短縮になるのでしょう。
世間の認識と大きくズレていると認識した出来事でした。
結局、開催延期
結局、東京オリンピック2020は1年程の延期となりました。だったらそんなに急がなくてもよかったんじゃね?というのは後の祭りですが、なんだかやるせない。
今回の件で感じたのは報道されたような形だけの過労死対策じゃ根本的にならないということ。
業界の自浄作用なんて無いに等しいから自分の身は自分で守るくらいの意識がないとダメなんだろうなと強く認識することとなりました。
会社や組織にどっぷりと浸かってしまうと何となく安心な気がしてませんか?
結局、組織に属して思考停止になっている状態が一番のリスクであることを認識するべきですね。